演出家コメント

 

演目が決まらない

 

 三条会では、下北沢ザ・スズナリで、2020年9月末に、演劇を上演することに決めている。劇場を予約したのがいつだったのか調べたら、2019年4月下旬だった。決めたのはこの時で、今も決意に変わりはない。ただ、その時は、「来年のオリンピックが終わったあとになんかを上演するの楽しみだな」って呑気なもんで、まさか、2020年のオリンピックがなくなるとは思っていなかったし、演劇を上演することについての現在の状況もまったく予見できなかった。一体、私たちは、今、なにを上演すればいいのだろう。演目が決まらない。
 私は、演劇は、作る側も見る側も、なにかの疑似体験ができるものだと思っている。体験するのに困難なものを、ふらりと劇場に足を運ぶことで体験できてしまう。例えば、戦争だったり、恋愛だったり、異次元への旅行だったり、仲間の人肉食だったり。そして、今、2020年夏現在、私たちが体験するのに困難なことは沢山ある。例えば、戦争だったり、触れ合う恋愛だったり、海外への旅行だったり、友達との会食だったり。そんなものを劇場にくることで疑似体験できるなんて素晴らしいではないか。いや、ちょっと待って。劇場で演劇作品を上演すること自体がなにより困難な体験であるならば、私たちは劇場でなにを体験してもらうことができるのか。演目が決まらない。

三条会 主宰・演出 関美能留

(2020.7.14)

料金が決まらない


 演目が決まった。といっても、実のところずいぶん前から決まっていたのかもしれない。三条会では、昨年から、上演のあてもなくいつか上演できたらいいなくらいの気持ちで、この戯曲の稽古をすすめてきた。いつかは、今だ。登場人物の女性たちが噂する「侯爵」は、ずいぶん「密」な性癖をお持ちのようで、妄想がふくらむ。ぷかー。また、作者のイニシャルから「三ゆ」というこじつけのフレーズを思いついたので、ゆったり、ゆうがに、ゆたかに、観劇してくださると嬉しいと思ったのである。客席は、最大25席に決めた。長い戯曲なので、幕ごとに換気もし、出入りも自由な雰囲気の作品にしたい。あれ?この場合、チケット料金っていくらにしたらいいんだろう。料金が決まらない。
 煙草の値段が、10月からまた上がる。私が吸っている銘柄は1箱560円になる。大学生だった30年前は220円だった。私が知っているもののなかでは、一番値上げしているものではないだろうか。当時と比べれば、健康を害するという理由で喫煙者はだいぶ減ったので、値上げはしょうがないのかもしれない。でも私は、煙草が美味しいと感じられるときが自分が健康である気がして、いまだに止められない。ふと、考える。演劇だって、作る側にとっても見る側にとっても健康のバロメーターだったのではないだろうか。そして以前は、演劇は煙草のようには健康をそこなわないものだったけれども、今では、どうなのだろうか。今回は私たちにできることとして、健康をそこなう確率をへらすために考えた「三ゆ」である。しかし料金が決まらない。といっても、私の小さな心臓では、大幅な値上げはできない。たぶん、もう決まっている。6000円くらいかな。そして、深呼吸。ぷかー。

三条会 主宰・演出 関美能留

(2020.8.20)